価格改定のお知らせメール書き方|顧客に納得してもらう例文8選と法的注意点

ビジネス連絡

「価格を上げたいけれど、顧客に嫌われたくない」「法的な問題はないだろうか」このような悩みを抱えながら、価格改定を先延ばしにしていませんか。

価格改定は企業の継続的な成長に不可欠ですが、適切な伝え方を知らないと、顧客離れや法的トラブルのリスクを招きます。特に2026年1月に施行される下請法改正により、価格交渉における透明性がより重要になっています。

本記事では、実務担当者が抱える心理的なハードルから法的リスクまで、価格改定メールの書き方を包括的に解説します。顧客に納得してもらいながら適正価格を実現する8つのテンプレートで、あなたの価格改定を成功に導きます。

この記事を読むメリット
・顧客との関係を維持しながら価格改定を実現する方法
・下請法改正に対応した法的リスク回避策
・実際に使える状況別メールテンプレート8選
・価格改定を拒否された場合の具体的対処法
・競合他社の動向を踏まえた適切な価格設定の考え方

価格改定で多くの企業が直面する3つの課題

価格改定を検討する企業の多くが、共通の課題に直面しています。これらの課題を理解し、適切に対処することが成功の鍵です。

課題1:顧客との関係悪化への不安

「長年のお付き合いがある顧客に嫌われたくない」という心理的なハードルは、多くの経営者や営業担当者が感じる共通の悩みです。しかし、適切な伝え方により、むしろ関係を深めることも可能です。

課題2:法的リスクへの懸念

下請法や独占禁止法などの法的要件を正しく理解していないと、意図せず法令違反となるリスクがあります。特に2026年1月施行の下請法改正により、価格交渉プロセスの透明性が重要視されています。

課題3:競合他社との価格競争

「競合他社より高くなってしまうのではないか」という懸念から、価格改定に踏み切れないケースが多く見られます。しかし、価値に見合った適正価格の実現こそが、長期的な競争力の源泉です。

価格改定成功の考え方
価格改定は「値上げをお願いする」のではなく、「適正価格で継続的にサービスを提供するための調整」として捉えることが重要です。この視点の転換により、顧客との建設的な対話が可能になります。

2026年下請法改正の影響と対応策

令和7年5月16日に成立した下請法改正は、2026年1月1日から施行され、価格交渉に関する新たな規制を設けています。これらの変更は価格改定の通知方法に重要な影響を与えます。

改正下請法の主要な変更点

新設された規制内容
・代金協議への応諾義務の明確化
・協議における説明・情報提供義務の新設
・一方的な代金決定の禁止
・手形払いの原則禁止
・用語変更:下請事業者→中小受託事業者、親事業者→委託事業者

下請法の対象となる取引の判定基準

下請法が適用される取引は、発注者と受注者の資本金額によって決まります。正確な判定が重要です。

取引の種類 発注者(委託事業者)の資本金 受注者(中小受託事業者)の資本金
製造委託 3億円超 3億円以下
製造委託 1000万円超3億円以下 1000万円以下
業務委託(情報成果物作成・役務提供) 5000万円超 5000万円以下
業務委託(情報成果物作成・役務提供) 1000万円超5000万円以下 1000万円以下

「買いたたき」に該当しないための要件

2021年12月の下請法運用基準改正により、以下の行為が「買いたたき」として明確化されています。

買いたたきに該当するおそれがある行為
・労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分について明示的に協議せず据え置くこと
・価格引上げ要求に対し、価格転嫁をしない理由を書面で回答せず据え置くこと
・正当な理由なく一方的に従来より低い価格を定めること

顧客心理を理解した価格改定メールの基本構成

効果的な価格改定メールは、顧客の心理的な抵抗を最小限に抑える構成が必要です。以下の7つの要素を適切に組み合わせることで、理解と協力を得やすくなります。

構成要素 顧客心理への配慮 記載のポイント
件名 内容の透明性確保 「価格改定」を明記し、隠さない姿勢を示す
関係性への感謝 信頼関係の再確認 具体的な取引実績や協力への謝意
改定の必要性 「やむを得ない」理解の醸成 客観的で検証可能な理由の提示
企業努力の説明 「最後の手段」印象の創出 具体的なコスト削減取り組み
改定内容 予測可能性の提供 実施日、対象、新価格を明確に記載
対話の姿勢 一方的でない印象の演出 質問や相談への対応意思
継続への期待 関係維持への意志表明 今後の価値提供への約束

顧客に納得してもらうための表現技法

同じ内容でも表現の仕方により、顧客の受け取り方は大きく変わります。相手の立場に配慮した言葉選びを心がけましょう。

心理的抵抗を下げる言い換え表現

抵抗を招く表現 受け入れられやすい表現 心理的効果
「値上げを実施します」 「価格改定をお願いします」 協力を求める謙虚な姿勢
「決定事項です」 「ご相談申し上げます」 対等な関係性の維持
「ご理解ください」 「ご理解いただければ幸いです」 強制感の緩和
「当然のことながら」 「やむを得ず」 必然性への共感誘発

状況別実践メールテンプレート8選

実際のビジネスシーンで頻繁に遭遇する8つのパターン別にテンプレートをご用意しました。【】内を実際の内容に置き換えてご利用ください。

1. 基本型:一般的な取引先向け

件名:価格改定のご相談(【実施予定日】より)

【会社名】【部署名】
【氏名】様

いつもお世話になっております。
【自社名】【部署】の【氏名】です。

【具体的な取引内容】でのお取引を通じ、貴社の事業発展にお役立てしていただけていることを、心より嬉しく思っております。

さて、このたび【商品・サービス名】の価格改定についてご相談申し上げます。

昨今、【具体的な外部要因】により、製造コストが継続的に上昇しております。弊社では【具体的な改善取り組み】を実施し、可能な限りのコスト吸収に努めてまいりましたが、品質維持と安定供給の継続のため、価格改定が必要な状況となりました。

つきましては、【実施日】より下記のとおり価格改定をお願いしたく、ご相談申し上げます。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【改定内容】
対象商品:【商品名】
現行価格:【金額】円
改定価格:【金額】円
実施日:【年月日】受注分より
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ご不明な点やご心配な点がございましたら、遠慮なくお申し付けください。貴社のご事情も伺いながら、最適な方法を検討させていただきます。

今後とも末永くお取引いただけますよう、よろしくお願いいたします。

【会社名】【部署】
【氏名】 
E-mail:【アドレス】
TEL:【番号】|携帯:【番号】

2. 重要顧客型:長年の取引先向け

件名:価格改定に関する重要なご相談

【会社名】
【役職名】【氏名】様

拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。

【氏名】様には、【具体的な協力エピソード】など、これまで格別のご理解とご協力をいただき、心より感謝申し上げております。

このたび、【商品・サービス名】の価格改定について、事前にご相談申し上げたく、お時間をいただければと存じます。

【市場環境の変化や具体的な状況】により、現行価格での品質維持が困難な状況となっております。

貴社におかれましては、ご予算等への影響も大きいものと拝察いたします。つきましては、詳細をご説明し、貴社のご事情も伺わせていただければと思います。

来週以降で、【氏名】様のご都合の良い日時はございますでしょうか。

長年にわたる信頼関係を何より大切に考えており、双方にとって最適な解決策を見つけたいと存じます。

敬具

【会社名】【部署】
【氏名】 
E-mail:【アドレス】
TEL:【番号】|携帯:【番号】

3. 段階実施型:影響緩和を重視

件名:段階的価格改定のご提案

【会社名】【部署名】
【氏名】様

いつもお世話になっております。
【自社名】【部署】の【氏名】です。

【商品・サービス名】の価格改定について、貴社への影響を最小限に抑える段階的実施をご提案いたします。

【段階的実施の内容】
第1段階:【実施日】より【改定内容】
第2段階:【実施日】より【改定内容】
最終価格:【最終価格】(【実施時期】達成)

このような段階的実施により、貴社での予算調整や関係部署への説明について、十分な時間を確保していただけると考えております。

実施のペースやタイミングについて、貴社のご都合に合わせた調整も可能です。ご相談いただけますでしょうか。

【会社名】【部署】
【氏名】 
E-mail:【アドレス】
TEL:【番号】|携帯:【番号】

4. 業界動向型:市場環境変化を説明

件名:業界動向に伴う価格改定のお知らせ

【会社名】【部署名】
【氏名】様

いつもお世話になっております。
【自社名】【部署】の【氏名】です。

昨今、【業界名】業界におきまして、【具体的な市場変化】により価格改定が業界全体の課題となっております。

弊社におきましても同様の影響を受けており、【実施日】より価格改定を実施させていただく運びとなりました。

【改定の概要】
実施日:【年月日】
改定内容:【具体的内容】

業界全体の動向として何卒ご理解いただき、引き続きのお取引をお願いいたします。

詳しい内容や個別のご相談については、お気軽にお声かけください。

【会社名】【部署】
【氏名】 
E-mail:【アドレス】
TEL:【番号】|携帯:【番号】

5. 既存契約配慮型:契約期間中は据え置き

件名:価格改定のお知らせ(既存契約期間中は据え置き)

【会社名】【部署名】
【氏名】様

いつもお世話になっております。
【自社名】【部署】の【氏名】です。

【商品・サービス名】の価格改定について、既存契約への配慮措置をご案内いたします。

【価格適用の区分】
新規契約:【実施日】より新価格を適用
既存契約:現在の契約期間満了まで現行価格を維持
契約更新時:新価格でのご相談をお願いします

長期間にわたりお取引いただいている皆様への感謝の気持ちを込めた措置です。

契約更新時期が近づきましたら、改めて詳しくご説明させていただきます。

【会社名】【部署】
【氏名】 
E-mail:【アドレス】
TEL:【番号】|携帯:【番号】

6. 選択肢提示型:複数プランを用意

件名:価格改定に伴うプラン選択のご案内

【会社名】【部署名】
【氏名】様

いつもお世話になっております。
【自社名】【部署】の【氏名】です。

【商品・サービス名】について、お客様の多様なニーズにお応えするため、以下の選択肢をご用意いたします。

【プラン1】標準プラン
価格:【金額】/内容:【詳細】

【プラン2】基本プラン  
価格:【金額】/内容:【詳細】

【プラン3】充実プラン
価格:【金額】/内容:【詳細】

各プランの詳細説明や、貴社に最適なプランのご相談も承っております。

【選択期限】までにご選択をお願いいたします。

【会社名】【部署】
【氏名】 
E-mail:【アドレス】
TEL:【番号】|携帯:【番号】

7. 一斉通知型:効率的な複数顧客対応

件名:【重要】価格改定のお知らせ

お取引先様各位

平素より格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
【自社名】でございます。

【商品・サービス名】の価格改定を実施いたします。

【改定概要】
実施日:【年月日】
対象:【対象商品・サービス】
主な理由:【簡潔な理由】

詳細は弊社ホームページの専用ページをご確認ください。
【ホームページURL】

【個別相談窓口】
電話:【番号】(平日9:00-17:00)
メール:【アドレス】
担当:【担当者名】

※本メールは重要なお知らせのため一斉送信しております

【会社名】【部署】
【氏名】 
E-mail:【アドレス】
TEL:【番号】|携帯:【番号】

8. 最終確認型:実施直前の念押し

件名:価格改定実施の最終確認(【実施日】より)

【会社名】【部署名】
【氏名】様

いつもお世話になっております。
【自社名】【部署】の【氏名】です。

【事前通知日】にご案内した価格改定について、実施日の最終確認をいたします。

【実施スケジュール】
実施日:【年月日】
現行価格での最終受注:【日時】まで
新価格適用開始:【年月日】【時刻】より

現行価格でのご注文をご希望の場合は、【締切日時】までにご連絡をお願いいたします。

ご不明な点がございましたら、お急ぎお声かけください。

【会社名】【部署】
【氏名】 
E-mail:【アドレス】
TEL:【番号】|携帯:【番号】

価格改定を拒否された場合の具体的対処法

価格改定への反対は決して珍しいことではありません。重要なのは、相手の立場を理解し、建設的な解決策を見つけることです。

4段階対応アプローチ

第1段階:詳細な聞き取り
反対理由を具体的に聞き、真の課題を把握します。感情的な反応と実質的な問題を分けて理解することが重要です。

第2段階:代替案の検討
段階的実施、契約条件の調整、サービス内容の見直しなど、複数の選択肢を準備します。

第3段階:条件の再交渉
双方のメリットを考慮した新たな条件を模索し、win-winの関係を目指します。

第4段階:関係の整理
合意に至らない場合の今後の取引方針を明確にし、関係の悪化を防ぎます。

顧客の懸念別対応策

顧客の主な懸念 効果的な対応策 提案例
予算制約 支払条件の柔軟化 段階的実施・分割払い対応
競合との価格差 価値の再認識促進 品質・サービス差の明確化
社内承認困難 承認支援の提供 説明資料作成・上司への直接説明
エンドユーザーへの影響 川下対応の支援 共同での顧客説明・販促支援

競合他社の動向を踏まえた価格設定の考え方

価格改定において競合他社の動向は重要な判断材料ですが、単純な価格競争に陥らないよう注意が必要です。

競合分析の3つの視点

1. 市場ポジション分析
自社の市場での位置づけを明確にし、価格戦略の方向性を決定します。

2. 価値提供の差別化
競合との違いを明確化し、価格以外の付加価値を強調します。

3. 長期的競争優位性
目先の価格競争ではなく、持続可能な競争力の構築を重視します。

送信タイミングと成功確率の関係

価格改定メールの送信タイミングは、顧客の受け入れ状況に大きく影響します。適切なタイミングの選択が成功の鍵です。

通知期間 適用取引 成功率への影響 留意点
3か月前 重要・大型取引 高(充分な調整時間) 市況変動リスク要考慮
2か月前 一般的B2B取引 良好(標準的対応) 業界慣習の確認必要
1か月前 小規模・スポット取引 普通(最低限の期間) 急な印象を与えるリスク
2週間前以内 緊急対応のみ 低(準備不足) 関係悪化の可能性高

よくある質問

どの程度の価格改定なら顧客に受け入れられますか?

明確な基準はありませんが、改定理由の妥当性と事前の関係性が重要です。客観的な根拠(原材料費上昇、最低賃金改定など)がある場合、10-15%程度までは理解を得やすい傾向があります。ただし、段階的実施や付加価値の提供により、より高い改定率でも受け入れられる場合があります。

競合他社より高くなってしまう場合はどう説明すべきですか?

価格の違いには必ず理由があります。品質、サービス、信頼性、納期対応力など、価格以外の価値を具体的に示すことが重要です。「安かろう悪かろう」ではなく、「適正価格による適正サービス」の提供であることを説明しましょう。

下請法の対象取引では、どのような点に特に注意すべきですか?

協議に応じる義務、必要な説明・情報提供義務が明確化されています。一方的な通知は避け、相手からの質問や相談に誠実に対応する姿勢を示すことが重要です。また、協議の記録を残し、合意内容を書面で確認することを推奨します。

価格改定後に顧客が離れてしまった場合の対策は?

まず離れた理由を詳しく分析し、改善可能な点があれば対処します。完全な関係修復が困難な場合も、将来的な協力の可能性を残すため、丁寧なコミュニケーションを維持することが大切です。また、他の顧客への影響を最小化する対策も重要です。

業界全体が値上げしている場合、どの程度詳しく説明すべきですか?

業界動向は有効な説明材料ですが、「みんなやっているから」という印象を与えないよう注意が必要です。業界全体の状況を説明した上で、自社特有の事情や努力も併せて説明することで、説得力が増します。

メールでの通知だけで十分でしょうか?

取引の重要度により使い分けが必要です。重要顧客や大口取引先には、メール送信後に電話確認や直接面談を行うことを推奨します。法的観点からは、メールも書面として認められますが、重要な合意内容は別途書面で確認することが安全です。

価格改定の理由として「人件費上昇」はどの程度有効ですか?

最低賃金の改定や労働環境改善への取り組みなど、客観的な理由がある場合は有効です。ただし、単に「人件費が上がった」だけでは説得力に欠けるため、具体的な施策(働き方改革対応、福利厚生充実など)と関連付けて説明することが重要です。

一度価格改定を拒否された顧客に再度お願いする場合のアプローチは?

前回の反対理由を踏まえた改善提案や、新たな市場環境の変化を説明材料として活用します。感情的にならず、相手の立場を理解した上で、双方にメリットのある解決策を提示することが重要です。また、関係修復に時間をかける覚悟も必要です。

価格改定成功のためのチェックリスト

送信前の確認項目
□ 改定理由が客観的で検証可能
□ 企業努力が具体的に説明されている
□ 実施日・対象・新価格が明確
□ 相手の立場への配慮が表現されている
□ 質問・相談対応の窓口が明記されている
□ 法的要件(下請法等)に配慮済み
□ 宛名・会社名に誤りがない
□ 一斉送信の場合BCC機能使用
□ 重要顧客には個別フォロー予定
□ 改定後の関係維持策を検討済み

まとめ

価格改定のお知らせは、単なる「値上げの通知」ではなく、取引先との信頼関係を深める重要な機会です。顧客の立場に立った丁寧な説明と、法的要件への適切な配慮により、持続可能なビジネス関係を構築できます。

価格改定成功の5つの要素
1. 心理的配慮:顧客の不安や懸念に寄り添う姿勢
2. 客観的説明:検証可能な理由と企業努力の提示
3. 対話姿勢:一方的でない相談・協議の姿勢
4. 法的配慮:2026年施行の下請法改正への対応
5. 関係継続:価格改定後の長期的関係構築

「顧客に嫌われるのではないか」という不安を乗り越え、適正価格での取引を実現することが、企業の持続的成長につながります。本記事のテンプレートと対処法を活用し、自信を持って価格改定に取り組んでください。

参考文献・引用情報